久々のMTT。4年前にPMFを聴いたときも「不安の時代」、その年のロンドン交響楽団を聴いたときもマーラー「巨人」。なにかMTTとは同じ曲が重なる。
今回はPMF10年間に輩出した若手演奏家の「同窓会オケ」ということで、その実力のに期待した。オープニングの武満は非常に幻想的で、客席にも奏者(オーボエ、フルート)を配置した立体的な音響空間の創出には新たな音楽の可能性というものを垣間みることができた。なにより「笙(しょう)」というコンサートホールでは聴くことのない和楽器の音色に聴き惚れた。ただ、木管陣の音が耳にさわったのが残念なところか。
2曲目はバーンスタイン。前回の演奏と比べてかなり「ノリ」の希薄なものに感じた。バーンスタイン特有の飛び跳ねるようなシャープさがないのだ。管が大わめきする割に、打楽器にまとまりがなくズレが目立った。弦楽器(特にヴァイオリン)がもう少し引っ張らないと旋律自体があやふやになる。低弦の重厚さは良かったが。
ピアノのティボーデに関しては疑いの余地はなく、ほぼ完璧に演じていたと思う。初見で弾いているように楽譜をじっと見つめていたのはなぜだろう。しかし、音のバランスといい絶妙のテンポといい、ただ舌を巻くのみである。リヨンの時と同様、真っ赤な靴下での登場に爆笑してしまったが。
最後は期待のマーラー。MTTはマーラーの演奏をほとんど録音していないが、4年前にLSOで聴いた「巨人」に、空前の感動をしてしまった覚えがある。マーラーといえば迫力を楽しみに聴きに来る人も少なくはないと思う。しかし、そのときの演奏は迫力、怒りなどとは無縁の、非常に「天国的」な演奏であった。あれほど平和な「巨人」を聴いたことがない。その演奏の再現を大いに期待した。
冒頭からあやしげな木管の音・・・全体的に美しさがない。何より粗く、バランスが取れてないのだ。寄せ集めのオケだからといってしまえばそれまでだが、あまり良いところが探せなかった。それでも第2楽章冒頭の低弦のヴォリュームには驚いた。突っ走るような第2楽章は非常に気持ちよかった。大好きな第3楽章は印象の薄いまま通り過ぎ、第4楽章の大爆発へ。若さの限りというほど鳴らしまくる演奏には心地よかったが、この間聴いた大阪シンフォニカーの演奏の方が燃えた。演奏の不満はいろいろあるが、トランペットとトロンボーンのうまさだけは光っていた。
しかし、MTTの解釈がこれほどまでに大きく変わっていることに驚いた。テンポの激しい揺らし方などはバーンスタインよりも過激。それだけに随所にMTT独自の表現が見られ、面白かった。フィナーレをあれだけ遅く引っ張る演奏にはただ頭を下げるのみ。前回とは異なる演奏だったが大いなる収穫だった。
アンコールに演奏されたワーグナーの「ローエングリン・第3幕への前奏曲」はMTTには意外な曲だったが、アメリカナイズされたワーグナーの荘厳な明るいサウンドに今日一番の充実感を覚えた。
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