14年目にしてようやく行くことになった、サイトウ・キネン・フェスティバル。ご存知の通り、このフェスティバルのチケットを取るのは至難の業。今回も、想定していなかった高値の席しか取れなかったのだが、せっかくの大曲演奏の上、大物歌手が登場なので大奮発して行くことにした。
松本市内はサイトウ・キネン・フェスティバルでさぞ盛り上がっているのかと思っていた。しかし、意外にも通常と変わらない街の感じだった。14年目に入り、慣れてきてしまったのか? それほど注目のものではなくなってきたのか? まぁ、クラシック音楽に興味がない人には関係ないのかも知れないが。
さて、会場は昨年オープンし、音響に定評がある、まつもと市民芸術館。エントランスからして非常に広く、どこに行けば客席に入れるのか分からないくらいだった。ホールこそ中規模の大きさだが、立派なホールである。おまけに、いつも行くコンサートとは客層が違う。今日は「グレの歌」初日なのでVIPがたくさん来ているのかも知れない。年齢層が高く、金持ちな感じの人が多いような・・・ そう思っているうちに、客席の入り口まで来てしまった。チケットはまだ見せてないのに?! と思ったら、客席に入るドアのところ(3階席だったので階段のところ)でモギリをするようだった。う〜ん、ちょっとセキュリティ甘いかも。
3階席3列目正面だったので、舞台を見下ろす座席。4階席はかなり急角度だったので、まずまずの位置だろう。問題となるのは天井がかぶっているところくらいか。オーケストラを見るには前の人が少し邪魔に感じたが、今日はピットの位置にオケが入っているからだった。写真を見てもらうと分かるように、ピットを舞台の高さ近くまで上げていて、舞台上にも半分近くまでオーケストラが乗っていた。歌手陣が演じる舞台は、さらに高く設置されていた。開演前にかなりの奏者が練習をしていた。寄せ集めオケなので、練習不足なのかも知れない。少し不安がよぎった。
盛大な拍手とともに小澤さんが登場。さぁ、いよいよ大曲の始まり。序奏はとても穏やかで心地よい。やがて、トマス・モーザーとクリスティン・ブリュワーの歌が加わる。オーケストラがあまり本調子ではないようだが、大物歌手による、抜群の歌唱力により聴き応えは十分。「馬よ!わが馬よ!」「星が歓呼し、輝く海は」のところでは、壮大なるスケールの演奏が聴けると非常に楽しみにしていた。しかし、中途半端なスケールでまったく強奏しないオケ。歌手に配慮してか? 体力を温存してか? ミスもかなり多く、不満の多い演奏が続く。
そんな中、驚きの名演が炸裂した。ミシェル・デ・ヤングによる「グレの鳩たちよ!(森鳩の歌)」だ。第1部の最大の聴き所でもあるこの歌。10分ちょっとの間、鳥肌が立ちっぱなしで、ヤングの歌声に釘付けになった。これまでのオケの不満を全て取り払ってくれた名演。休憩に入っても興奮は冷めなかった。
第2部、第3部に入ってもオケの調子・迫力は今ひとつ。確かにライスターのクラリネットは上手かったし、工藤さんのフルート、宮本さんのオーボエ、コンミス(だれだろう?)も上手かった。しかし、それぞれが噛み合わない。金管も不安定なところが多い。それでも今回の演奏会が感動的だったのは「演出」が付いていたからに他ならない。歌手陣と合唱と演出によって演奏の不出来をごまかせたのではないかと思う。そもそもこの曲は演出など付かないもの。しかし、あまりにも自然な演出は効果的だった。特に道化師のシーンなどは演出がなければあまり理解できなかったかも。
何かと持っていた不満を全てを吹き飛ばしたのが、東京オペラシンガーズによる圧倒的迫力の合唱だ。何しろ上手い! 女性が全員鳩の衣装を身に着けて、統一感のある動きを見せながらの熱唱。最後になってオケもようやく鳴り始めた。そして迫力と感動のフィナーレ。間を置いてからの拍手が観衆の感動を物語っていたと思う。
終演後、いつものように楽屋口に行くことにしたが、ここはサイトウ・キネン。さぞかし多くのファンで埋まっているのではと思った。しかし、予想に反して、15人くらいのファンしかいなかったのには驚いた。冒頭でも書いたように、客層の違いのためなのだろうか? そんなこともあり、小澤さんを始め、歌手全員にサインをもらうことができた。オーケストラこそ心底楽しむことはできなかったが、歌手陣の素晴らしい活躍で、とても心に残る演奏を聴くことができた。
来年は、メンデルスゾーン「エリア」とのこと。来れるかどうかは未定だなぁ。
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