小谷口さんのリサイタルとなると、かなり前から楽しみにせざるを得ない。早くはないが、開場30分前に行ったところ、すでにロビーはかなり混雑してました。当日券もほとんどでなかったという人気振り。やっぱり人気あるんだ。。。ほぼ満席の状態でした。会場には京響のメンバーも数多く駆けつけていただけでなく、大フィルのブルックスさんや、若手のクラリネット奏者など同業者?も多数でした。
前半はまさにB→Cのプログラムで、多彩なテクニックが光るプログラムでした。cobaの新作は意外な曲想で、ほとんどバッハ回帰のような曲でした。ブルックナー休止ならぬ、coba休止?が特徴的で、フレーズを噛み締めるようなのが印象的だった。さすがに緊張していたのか、少し平坦で重たさを感じた。いつものように流れるような美しさは影を潜めていたが、バッハっぽいのはクラリネットに合うんだなぁと興味深く聴けました。
2曲目のシュテルツェルは、優しいメロディが小谷口さんにはピッタリ。続くバッハは対照的にエスクラによる痛快な演奏。この曲はクラリネットのためにあったのかと勘違いするほどマッチしてました。あんな高い音はトランペットの方がおかしいよなー。くだらない感想かもしれないが、ひたすら連続する音符の中、究極までに絶妙な息継ぎでした。私には絶対不可能です。
ベルクは小谷口さんの微妙な陰影が威力を発揮する好曲だ。少し控えめな表現だったので、奥ゆかしさの方が勝ったが、さりげなくすごいテクニックを繰り出すところが素晴らしい。ミルッチオは、今年1月の三田でも聴いた曲。ホールが違えば印象はだいぶ変わる。どちらかと言えば、少し冷たくて良く響くホールの方が合ってる曲か。静寂の使い方としては三田の方が良かったかな?フェニックスホールでは息づかいが感じられるのが生々しいのでそれはそれで緊張感があった。
圧巻はヴィトマンでしょう。今この日本にここまでの演奏ができる奏者は何人いるだろうか?普段はにこやかでかわいい小谷口さんが豹変して、恐ろしいまでの世界に没入していました。曲は意外に聴きやすいながらも現代曲そのもの。聴いたことのない音を出したり、無音を奏でたり、とんでもないダイナミズムだったり。ピアノも弦を直接弾いたり、異物(CDケース)を入れたり、挙げ句の果てには叫んだり。現代音楽の様々な表現手法を盛り込んだコンパクトな曲は意外にも万人が楽しめたのではないでしょうか?もちろん演奏者の力量に他ならない。個人的にはピアノの残響とクラリネットとの音が同一化して響いていたのがすごく気持ちが良かった。
圧巻の前半でしたが、なぜか後半は「らしく」なかったように思う。まずシューマン。いつかは自分も演奏したいと思っている憧れの曲。小谷口さんの優しさに包まれた演奏に期待していたのだが、どうしたのか非常に辛そうだった。優しくも明るい曲のはずだが、苦しそうで伸びやかさに欠けるものだったのが残念!前半で魂抜けちゃった?息継ぎも大変だし、集中力を保つのは大変な曲のようです。
気を取り直してではないが、シューベルトは一転して魅力満点でした。ピアノとクラリネットとテノールというユニークな組み合わせ。経種さんの歌唱力は本物で、もっと聴いていたいほど素晴らしかった。それに伸びやかで純粋無垢なクラリネットが絡むのだから、たまったもんじゃない。まさに天上の音楽に聴こえました。
最後はブラームスの名曲。これもいつかやってみたい曲の1つだ(しつこい?)。また苦しげな小谷口さん。。。珍しく出遅れたりのミスもあった。前半の奇曲がやっぱり原因だろうか。それでもそんじょそこらの奏者じゃないので、聴き応えは十分ありました。第2楽章は伸びやかさや、陰影の付け方などは勉強になりました。
アンコールは経種さんも交えて圧巻のオペラ劇場。「トスカ」より。シューベルトの歌曲のように小谷口さんもイキイキしてましたが、経種さんも俄然張り切って、大熱唱のアンコールとなりました。クラリネットリサイタルだか、オペラアリアのリサイタルだか。ユニークな演奏会は、ユニークな曲で終わりました。
終演後は中高生に取り囲まれて遅くまでサイン攻めにあっていた小谷口さん。同じプログラムの東京公演でも、ギャフンと言わせてもらいたいものです。
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